「でも、家族が心配するだろ」 「わかってる。逃げられないってことも、全部わかってるの。わかってるから――」 もうすこしだけ、白鳥の名前を忘れていたい。 しばらく無言の時間が続いたと思ったら、はあと大きなため息が聞こえた。 「……今からなら、ぎりぎり間に合うかな。よし、行くか」 「え?」 「デートだよ、お姫様。自由を見たいんだろ?」 私に手を差し出して、彼は端正な顔をふっと崩す。その目は深い黒色で、とても澄んでいた。人を惹きつけて放さないような、引力のある瞳だ。