父も母も仕事から帰ってきていないのか、姿が見当たらなかった。
リビングの続きになっているダイニングキッチンでは、以津子さんがいつもより緊張した面持ちでお茶を淹れている。その正面で、キッチンカウンターのスツールに腰を下ろした波瑠がアレクに散歩用の胴輪を取り付けていた。
「これが、姪の真珠だよ」
伯父の声がしてリビングに目を戻すと、一人がけのソファに座っていた若い男性がおもむろに立ち上がった。
「真珠、彼が飛鳥商事の社長ご子息、飛鳥井(あすかい)くんだ。今年で三十になるそうだ」
座っていたときはわからなかったけれど、立ち上がると百八十センチは超えていそうなほど背の高い人だった。チェック柄のしゃれたジャケットを嫌味なく着こなした彼は、にこりと人が好さそうに微笑む。

