その子会社のひとつ、ホワイトモールに勤めて二年と半年、私は行きも帰りもすべて黒田さんが運転する車に送迎してもらっている。むしろ海外でメトロに乗ったことがあるだけで、日本では一度も電車に乗ったことがなかった。
同僚と帰りが重なったときは最寄りのJRの駅まで一緒に歩くけれど、さらにそこから徒歩二分のところにある地下鉄を使うからと理由をつけて駅前で別れることが常だった。そして忠実な影のように後を追ってきてくれていた黒田さんの車に、すばやく乗り込むのだ。
窓の外の景色を眺めながら、濡れたエントランスアプローチにヒールを響かせていったみどり先輩の後ろ姿を思い出す。
毎日送り迎えをしてもらっているなんて、会社の人たちには絶対に知られたくない。

