二年後に還暦を迎える彼は、四角い顔の中を優しくほころばせる。助手席に波瑠が乗り込むのを確認して、黒田さんは素早くハンドルを操作した。雨に濡れた通りを、車は音もなく滑り出す。
『黒田』と刺繍が入った白い手袋を大事そうに嵌めて丁寧に運転をする彼は、もともと祖父の運転手として長年にわたり白鳥家に仕えてくれた人だ。
今年で九十五歳になる私の祖父、白鳥栄一(えいいち)は、ホワイトグループの前身となる小さな商店だった白鳥屋を、子会社が二百社を超える巨大企業へと成長させた人物で、現在は名誉会長としてその名を轟かせている。
二十年前に現役を退いた後は、伯父の宗一(そういち)が代表としてホワイト株式会社の社長とグループCEOを兼任していた。

