そう言って微かに視線を落とす波瑠のジーンズに包まれた細い脚は、そのままひざまである編み上げブーツに覆われている。
明るく笑う妹の顔が思い浮かんで、ため息がこぼれた。
「珠里(しゅり)の仕業ね。いやだったら断っていいのよ?」
「べつにいやじゃないよ」
私や妹と姉弟のように育ってきた波瑠は、前を向いたままぽつりとつぶやく。目立たないように停まっていた車の前まで来ると、彼は慣れた動作でドアを開き、乗り込む私が濡れないよう傘を掲げた。
後部座席に収まった途端、運転席に座っていたロマンスグレーの男性が小さく頭を下げる。
「お嬢様、おかえりなさいませ」
「いつもすみません、黒田さん」
「いいえ、私の大事な仕事ですから」

