「今起きたのか。ちょうど、美弥子さんに事情を説明してきたところだ」
私の母親の名前を口にすると、彼はじとりとした目で飛鳥井さんを見た。尋だと名乗ったばかりの彼は、困ったような笑みを浮かべる。
「やだな、そんな目で見るなよ。なにもしてないって」
「本当だろうな?」
「本当だよ。じゃあ、俺は行くから、あとはよろしく、兄貴」
ポンと社長の肩を叩いて、ブラックスーツの背中が廊下に消えていく。
「兄……貴?」
尋さんは、ことさら強くその単語を発音していた気がする。まるで、私にすべてを伝えるみたいに。
ふうと大きなため息が聞こえた。
半分布団に入ったまま固まっている私の横に、袴姿の彼はどかりと腰を下ろす。私にペットボトルの水を差しだしながら、困ったような、楽しんでいるような表情で、片方の眉を持ち上げた。
「さて、どこから説明するかな」

