「本当は尋(ひろ)っていうんだ。飛鳥井尋。漢字がジンて読めるから、学生時代の知り合いにはジンて呼ばれてる」
「飛鳥井……尋……?」
「そう。飛鳥井尋。ぴちぴちの二十八歳」
茶化すように笑って、彼は立ち上がった。長身の彼を座ったまま見上げると、その小さな顔は、銀河の果てにあるみたいに遠い。
「騙してごめんね真珠ちゃん。君の本当の婚約者は、俺じゃなくて」
そのとき、彼の背後の襖が開いた。たん、と軽快な音を立てて姿を現したのは、紋付き袴姿の――。
「あ、迅」
飛鳥井さんが後ろを振り返って、ほっとしたような声を出した。
闖入者の鋭い目つきが私に注がれ、ぎょっとする。
やっぱり……夢じゃなかった。

