「うわ、雨」
みどり先輩が外灯の届かない湿った空を仰ぐ。
「最悪。傘持ってこなかったわ」
「昼間は晴れてましたもんね」
駅までは徒歩五分ほどだけれど、走ったところでこの雨脚では濡れてしまう。
細かな雨粒が街路樹の葉を叩く音を聞きながら、私は肩にかけたバッグから折り畳み傘を取り出した。べっこう色の柄にピンクゴールドの七本骨をつかった丈夫なそれは、傘職人によるハンドメイドで私のお気に入りだ。
「どうぞ、これを使ってください」
差し出すと、みどり先輩は驚いたように私を見下ろした。
「え、でも。桜井ちゃんは?」
「ロッカーに置き傘がありますから。取りに戻るついでにやることを思い出したので、先に帰っちゃってください」

