いくら上層部が把握しているからといって、一緒に働いていた人たちになんの挨拶もせずに退職するのは気が引けた。
本社に勤めていたのは一年にも満たない短い期間だったけれど、開発企画の人たちはもちろん、同じフロアの営業本部の人たちとだって、毎日顔を合わせていたのだ。
お別れの挨拶にちょっとしたお菓子を配るくらい罰は当たらないだろう。
ポーンとエレベーターが音を立てて二十階に停車する。まだ返却していないIDカードでセキュリティドアを抜けると、フロアはいつもと様子が違っていた。
普段なら煌々と明かりが点いていて大勢の人たちが残業をしているのに、今は半分以上の電気が落とされていて、唯一明かりが灯っている営業部の一角にも二人の社員が残っているだけだ。

