就業前には混み合うエレベーターも、定時を二時間過ぎた今の時間帯だとほとんど人がいない。
ぽーんと音を立てて口を開いたそれにみどり先輩とともに乗り込み、ずらりとならんだ数字のなかから1階のボタンを押した。
グループトップの売り上げを誇る『ホワイトリテイリング』が入居する二十八階から、地下二階までをつなぐエレベーターは、高層階用と低層階用にそれぞれ三基ずつ設置されているけれど、そのいずれにも、二十九階と三十階のボタンはついていない。
グループ全体のかじ取りをする『ホワイト株式会社』のオフィスへ行くには専用のエレベーターに乗らなければならず、私たち子会社の一般社員は足を踏み入れることができないようになっていた。

