だって彼は私の婚約者なのだから。

 商業施設の玄関アプローチから階段を下りて通りに出ると、黒塗りの車が一台待っていた。飛鳥井さんが後部座席のドアを開き、私に乗るように促す。

 ためらいつつ、車に乗り込もうとした瞬間、端正な顔が近づいて、頬にキスをされた。

 私の頭をやさしくなでると、彼はドアを手でつかんだまま車内に向かって声をかける。

「彼女の自宅まで。頼んだよ」

 白い手袋をはめた運転手の男性が、心得たようにうなずく。

「え……飛鳥井、さん?」

「おやすみ、真珠ちゃん。ゆっくり休んでね」