場所を伝えると、波瑠は「すぐ迎えに行く」と言って電話を切った。
私は携帯をカバンにしまい、ダイニングチェアにかけてあったコートを羽織った。しんと静まり返った部屋をゆっくり見回す。
いたるところに残った鷹野社長の気配。
自分の中に刻み込むように、息を吸って、ゆっくり吐きだした。
寝室を一瞥してから、玄関に向かう。ブーツを履き、指紋認証型の玄関ドアを開いて、音を立てないように外に出た。
カチッとロックのかかる音がする。
「さようなら」
誰にともなくつぶやいて、私は絨毯敷きの廊下に、迷うことなく足を踏み出した。

