この女は婚約者がいる身で社長となにをやっているんだ、と思われているに違いない。
もしそのまま、伯父の耳に入ったりしたら……。
「あ、あの」
「私はなにも見ていません」
黒いフレームメガネの向こうで、彼の目は怜悧な光を湛えている。それは冷淡に思えるほど静かで、揺らがない。
「私の仕事は、この会社のために、社長の負担を少しでも軽くすることです」
それ以外のことには興味がないのだという口ぶりで淡々と言うと、彼はきびすを返し、社長室を出ていった。
颯爽とした後ろ姿が消えた後も、私はその場に立ち尽くしていた。
声で頭を殴られたみたいに、戸上さんの言葉が頭の中をぐるぐる回っている。

