「出発のお時間です」
「……ああ、わかった」
かちこちに凍りついている私を傍らに立たせると、社長は席を立ってカバンを拾い上げた。
「……じゃあ、行ってくる」
短く言うと、鷹野社長は「あとは頼む」と戸上さんの横をすり抜け、社長室を出ていった。
ドアが閉まり、部屋の中に沈黙が降りる。
戸上さんの視線にさらされ、私は凍り付いたまま動けなかった。
この有能な社長秘書は、すべての事情を把握している。
私の出自や、伯父との関係や、ホワイトグループの動向、その他のすべてについてを。もちろん、私に飛鳥井さんという婚約者がいることだって。
冷や汗が背中を滑り落ちた。

