「ここでは、桜井と呼んでください」
あまりに必死な顔をしてしまったのか、社長は眉を片方持ち上げた。それから察したように言い直す。
「そうか。それなら真珠(まみ)と呼ばせてもらう」
「え」
いきなり下の名前で呼ばれるとは思わず固まっていると、社長はゆっくり立ち上がった。
「どうしてここに呼ばれたのか、わかるか?」
「いえ」
家のことだろうかと思ったけれど、私の雇用主となる鷹野社長はすでに事情をすべて把握しているようだ。
皺ひとつない上質なジャケットをさらりと着こなした彼は、立ち上がるとますます威圧感があった。

