それでなくても世間は師走で慌ただしく動いている。混み合ったエレベーターの中で、前の人のコートの背中を見つめながら心の中でつぶやいた。 このまま、先延ばしになってくれた方がいい。 その瞬間、映画館のプライベートルームでじりじりとソファの上を迫ってきた精悍な顔を思い出し、はっとする。 ダメだ。さっさと結納を済ませて、鷹野社長とは接点をなくした方がいい。 そう思うのに、考えれば考えるほど、胸が苦しくなるばかりだった。