「社長、お連れしました」
角部屋になっているそこは、正面と左奥の二面がガラス窓に覆われ、太陽の恩恵をあますところなく享受していて、電気をつけずとも十分に明るい。
八人が座れる会議用のエグゼクティブテーブルと、一人掛けボックスソファが四脚設置された応接スペース。その脇に背の高い観葉植物が配置されていて、それらを一望できる場所に重厚感たっぷりのデスクが置かれていた。
その人は、目を上げることなく「こっちに」と手振りだけで指図する。
「さあ、どうぞ」
戸上さんに促されて毛足の長い絨毯の上に足を踏み出すと、表情を一切変えない優秀な社長秘書は「私はこれで」とドアの外に出ていってしまった。
ここに来るのは初めてではないけれど、ぴりりとした空気のなかに初対面の人間と取り残されたら、さすがに緊張する。

