安西先輩は黒々と繁った眉間を開き、疲れたようにため息をついた。
「あのな、ヒラの俺らが社長と直にやりとりする機会なんてないだろ」
「じ……じゃあ、秘書室に異動する!」
「桜井真珠(まみ)さん」
先輩たちがやりとりしている最中に話しかけられ、思わず肩が跳ねた。いかめしい顔をしていた安西先輩と口を尖らせていたみどり先輩が、私の後方を見て慌てて口をつぐむ。
私の傍らに立っていたのは、品のいいスーツをかっちり着こなした四十代の男性だった。
七対三にブロック分けした前髪に、黒いフレームのメガネ。神経質そうな顔で私を見下ろしているのは、社長秘書の戸上(とがみ)さんだ。
「社長がお呼びです。社長室までお越しください」

