車の走行音しか届かない薄暗い車内で、つないだ手のぬくもりだけがとても鮮明だ。
どういうわけか急に泣きたくなって、私は気づかれないように唇を噛んだ。窓の外に目を向け、あふれようとする気持ちを懸命に押しとどめる。
婚約者がいる手前、自宅前まで男性に送ってもらうのはなんとなく気が引けて、門扉から二十メートルほど離れた場所で車を停めてもらった。
「今日はごちそうさまでした。家にまで送っていただいて」
影が落ちた車内で、鷹野社長はじっと私を見ている。その瞳から早く逃れなくてはと、急いでシートベルトを外し、ドアに手をかけた。
「それじゃあ――」
言いかけたとき、私の顔すれすれに伸びてきた手が、ばんと窓を叩いた。

