淡い橙色の照明に照らされて頬に影が落ちるほど、彼のまつ毛は長い。その目をつまらなそうに細めて、社長はぽつりと言った。
「どうせ逃げられない運命なら、その中でめいっぱい楽しむしかないだろ」
胸の底から、なにかがぶわりとこみ上げる。
エンパイア・ステート・ビルの八十六階から見下ろした景色が脳裏をかすめる。冷たい風に前髪をなびかせて、くしゃっと笑っていた彼がよみがえる。
『どうしても逃げられない運命なら、その中でめいっぱい楽しむしかない』
中庭から戸をすりぬけて聞こえていた虫の声が、一気に遠くなった。聞こえるのは、自分の心臓の音だけだ。
まさか。
そんなわけがないと思うのに、胸の高鳴りはおさまらない。

