「帰りたくない……」
「……でも、帰らなきゃいけない、でしょ?」
私の心を見透かすように、彼はやさしく、静かにつぶやく。
「送るよ」
地上に降り立つと、彼は慣れた動作でタクシーを捕まえた。混雑したマンハッタンの南北に延びるアベニューを、車は十数分かけて北上していく。
「ねえ、ローマの休日だと、デートをしたふたりはどうなるの?」
薄暗い車内で、手をつないだまま、私はとなりに座る彼を見た。彼はつるりとした頬に陰を落として、あいまいに微笑む。
「……さあ、どうだったかな」
どこか寂しげな笑みを見て、私は思う。

