私は唯一の所持品であるポシェットを開けて、日本から持ってきていたものを取り出した。こんな小さなものじゃ気休めにもならないかもしれないけれど、ないよりはいい。
「どうぞ、使ってください」
私が差し出した使い捨てカイロを見ると、彼は「Wow, amazing!」と声を上げた。今度は日本語にしてもらわなくても意味がわかった。
「サンキュー真珠」
カイロの袋を破いてセーターの下に着ていたTシャツに張り付けると、彼は再び私の手を取る。
「それじゃあ、行こうか」
「どこに行くんですか?」
「まずはメトロ!」
「え、地下鉄⁉」
自分には縁がないと思っていた乗り物の名前を聞いて、一瞬、寒さが吹き飛んだ。

