翼は直ぐに熊の化け物に襲われた時の事を思い出した。


_そんな…まさか……。


翼は頭を横に振った。鎖骨の下まで伸びた真っ直ぐな髪の毛が激しく動く。あの悍(おぞ)ましい化け物と人間が一緒だとは思えなかった。



「影響を受けるのは人間だけではない。 動物や草花……命あるものは全て穢れを受ける……そなた以外、全ての命が……」

「私、以外……?」



_そんな事言われたって……私にどうしろっていうの? 知らない人たちじゃん! 知らない世界じゃん!!



「私には関係ないじゃん!!!!」

「確かに、そなたには断る権利がある」

「じゃあ__」

「そうなればそなたのせいで世界が1つ滅ぶだけの事だ」



ガイアの言葉にカチンときた翼は鬼の形相で口を開いた。



「そんな世界を創ったあんたの責任でしょ!? 私の所為みたいな言い方しないでよ!!」

「そうだな」

「そうだなって…あんた__」

「何の報酬も無しにとは言わない」

「……は?」



ここで初めてガイアが笑みを漏らした。涼しげで美しい微笑みだが、翼には悪魔の笑みに見えている。無意識に一歩後ずさった。



「穢れた泉を全て浄化できたなら、元の世界へ帰してやろう」

「は!? そんなの当たりま__」

「そして、1つだけ、何でも願いを叶えてやろう」



ガイアの言葉にずっと目を釣り上げていた翼の顔から力が抜けていく。


風が吹き抜けガイアの髪の毛が靡く。真っ白で血の気のない頬が露わになった。