黙ったままの八木さんに、これ以上は聞くことはできなくて、私はソファーから立ち上がり帰ろうと思った。
「……菅谷、なにか言ってた?」
俯いたままの八木さんの表情は見えない。
「なにも……。でも、多分傷付いていると思います。」
あの時の、社食で見た菅谷さんの表情は……そうだと思った。
「傷付く?」
「え?」
「傷付いてんのかな……俺なんかの事で」
八木さんの声音は、何故か自虐的に響いた。
八木さん?
「アイツが俺のことで、傷付いたりはしないと思う」
「どうしてですか?」
「アイツが好きなのは、御園生だから……」
え?
八木さんの口から出た言葉に、私は唖然とした。
どうして八木さんがそんなことを言うのか分からなかった。
「八木さん?」
私は知っている。
彼女が八木さんを好きなこと。
菅谷さんの八木さんに対する言動を考えると、八木さんが菅谷さんの気持ちに気づいていないのはなんとなく分かる。
でも、どうして御園生さんだなんて。
「八木さん、どうして御園生さんだなんて思うんですか?」
「アイツら大学の時付き合ってたんだ。別れた理由まではしらないけど……」
付き合っていた。
御園生さんと菅谷さんが?
知らなかった。
勿論、知り合って少しの私が彼らの過去なんて知らなくて当然で。

