どの位そうしていたのか。
不意に私を抱き締めていた八木さんの腕の力が抜けて、八木さんは自分の体を私から離した。
「……八木さ……」
膝の力が抜け、その場に座り込んでしまった私を抱き抱えた八木さんは、しっかりとした足取りで、玄関から部屋の奥へ進み、私をソファーへ降ろした。
「……大丈夫?」
そう尋ねた八木さんの顔は、いつもの優しい彼のもので。
なんだか一気に現実に引き戻された気がした。
「ごめん」
私の真向かいのソファーに腰掛け、頭を下げた八木さん。
私は声を出さず、首を左右にふった。
まだ真っ直ぐ彼を見ることが出来なかった。
浅ましい自分の想いがまだ完全に消えてないのが分かっていたから。
「橘さんにはカッコ悪い所を見せちゃったな……」
そう話す八木さんは、完全に覚めてはいないみたいだけど、普段の八木さんと殆んどかわりないように思えた。
だから、聞いてみたかった。
ずっと気になっていたこと。
聞きたくてしかたなかったことを。
顔を上げて、八木さんを真っ直ぐ見た。
「八木さん……!」

