好き。
好きだよ、八木さん……。
苦しいなら、私に逃げればいいのに。
蘭……と呼びながら、菅谷さんを抱けないのなら、私が彼女の代わりになる。
「八木さん……っ、」
八木さんを抱き締める腕に力を込めた。
……違う。
……ダメ!
ズルいのは私。
八木さんと菅谷さんへの想いに憧れながら。
菅谷さんを応援すると言いながら。
八木さんに抱き締められて、「そばにいてほしい」と乞われて、期待してしまった。
……一瞬で崩されたけれど。
恥ずかしい……。
なおも繰り返される八木さんの菅谷さんを呼ぶ声は、鋭利なナイフみたいに私の心を切り裂いていく。
いっそ、跡形もなくなるくらい細かく塵みたいになるまで刻んでほしかった。
私の中の黒く泥々した、イヤらしい感情ごと。

