片恋スクランブル



朦朧とした様子ながらも、エレベーターの階数を押し、自分の部屋の前で鍵を出して扉を開けた八木さんを見て、ようやく私も大丈夫だなと思えた。

「じゃあ、ちゃんとベッドで寝てくださいね?」

彼の腕を離し、扉の中へ八木さんの背中を押した。

「……って」

「はい?」

なにか聞こえた気がして、顔を上げた私の目の前に、八木さんの顔があった。

え?

次の瞬間、八木さんの体が覆い被さってきて……。

「八木さん?」

倒れる……っ。

咄嗟に彼の体を抱き締めていた。

「ごめん……橘さん。」

「八木さん……?」

「頼む。今だけでいいから……そばにいて……」

耳元で囁かれた声に、胸の辺りがキュウッとなって鳥肌がたった。

「八木さ……?」

私を見下ろす彼の目が、心細げに揺れていた。

まるで、捨てられた子犬みたいなすがるような眼差し。

そんな八木さんの目を見ているうちに、頭の中が真っ白になっていた。

無意識に彼へ腕を伸ばし、彼の頭を引き寄せ、自分の胸に抱き締めていた。