「八木さんっ、」
肩を揺さぶって、八木さんを起こした。
タクシーに乗って、自分の住所を言った途端寝入ってしまった八木さんを見て、タクシーの運転手さんは私に同乗を求めてきた。
確かに、乗ったが最後起きなかったら困るもんね。
そうして私も一緒にタクシーに乗り込み、八木さんが告げた場所へ着いた今、彼を起こすのに必死だった。
「ん……大丈夫、大丈夫」
大丈夫を繰り返す、ちっとも大丈夫じゃない彼の体をタクシーの運転手さんと両脇を支えながら、彼のマンションの入り口まで運んだ。
「さすがにこれ以上は……」と息も絶え絶えの運転手さんにお礼をいって帰ってもらった。
「でも、どうしよう……」
思わず呟いてしまった。
このまま置いて帰れない。なんとか部屋まで運ばなきゃ。
「八木さんっ、起きてください~!」
両肩をつかみ、揺さぶった。
八木さんは、低く呻いた後、ゆっくり目を開けた。
「……橘さ……ん?」
ぼんやりとした眼差しで、私を見て呟いた八木さんに「そうです」と返事をして、今の状況を簡単に話した。
「え……ごめん。俺、覚えてないや」
そう答えた八木さんは、今までより幾分か、意識がはっきりしているみたいでホッとした。
無理ないかも。寒さで十分酔いが覚めそうだもん。
10月に入って、朝晩はすっかり冷え込んでいた。
21時過ぎた今は、上着を着ていても震えるくらいだ。
「とにかく起きて部屋に戻って休んでくださいね?」
「あぁ……」
返事をしながら立ち上がった八木さんは、まだフラフラで。
「大丈夫……じゃないんですよね……」
私は彼の腕を支えて、エレベーターに一緒に乗り込んだ。

