「八木さんとホテルに泊まったんだって、はにかむんだもん」
「うわぁ……とうとう八木さんも、堕ちたかぁ」
女子は恋ばな好きなの分かるけど、早く話題を変えてほしい。
菅谷さんに聞かせたくない。
嫌な気分で彼女達のテーブルから離れた。
白川さんと付き合うんだ……。
大きな溜め息が、こぼれた。
「橘ちゃん、ため息つくと幸せ逃げるんだってよ」
不意に聞こえた声の持ち主。
彼女を見て、咄嗟に窓際の女子社員の集団に背を向ける形で、菅谷さんを社食の外へ連れ出す。
「橘ちゃん?どしたの?」
だめ!
今は絶対来たらだめ!
聞かせたくないの。
菅谷さんが悲しむ顔は見たくないの。
「え、と。あ!相談があって……」
上手い言い訳も見つけられない。
「今は、戻った方がいいよ?町田主任が睨んでる」
笑いながら、厨房を指差す。
「あ、やば……」
慌てる私の側で、菅谷さんはクスクス笑っている。
なにも聞いてないのかな?
それならそれでいい。
「じゃあ、菅谷さんまた……」
菅谷さんに背を向けて歩き出した私の後ろで、呟きが聞こえた。
「ありがとね」
えっ?
振り返った私が見た彼女は、泣きそうに笑っていた。
菅谷さん……知ってるんだ。
二人のこと。
「菅谷さ……ん」
菅谷さんの元に戻ろうとした私は腕を掴まれた。
「……忙しいんだから、サボりはだめ!」
町田さんの冷めた目が、刺さるように私に向けられている。
「町田さん……」
「橘ちゃん、またね!」
菅谷さんは手をふりながら、離れて言った。

