「お前、今日は帰れ」
「え?」
「アイツからメールがあった。今日は会えないって」
御園生さんは携帯を開いてそのメールを見せてくれた。
『すまない。急用で会えない。 八木』
短く、素っ気ない文章だった。
「八木さん達は?……帰っちゃったんですか?」
いつの間にかいなくなった彼らの行方を御園生さんに尋ねた。
御園生さんは渋い表情で、上を指差す。
上……?
「さっき、エレベーターで上がっていった」
上って……。
「7階で止まってそのままだ」
「7階……」
「5階以上は、このホテルは客室しかない」
「客室……」
私は御園生さんの言葉を繰り返していた。
意味するところは、一つだけ。
八木さんは、白川さんとこのホテルに泊まるんだ。
「……帰ります」
ここにいても、もう意味はない。
八木さんに会わなくても、彼に聞かなくても、分かる。
二人はそういう関係なんだって。
今まで私が考えていたのは全部、私一人が願っていた勝手な妄想だって。
疎い私でも分かる。
もうこの場に1秒だっていたくなかった。
八木さん達が泊まるホテルに、私がいる意味なんてない。
また滲んでくる涙を人に見られたくなくて俯いたまま、御園生さんから……エレベーターホールから離れた。
「待て……待てよ!」