「お化粧、してる?」

私の頬に触れた菅谷さんの手から、ラベンダーの香りがフワッとして鼻腔を擽った。

「ファンデと口紅位しか……」

「えぇ~!それじゃあ女子力ゼロじゃないですか」

甘ったるい言葉の刺は容赦なく耳に刺さる。

「……っていうか、肌キレイだよねぇ……」

白川さんとは対照的に、菅谷さんはうっとりした表情で私の頬に触れている。

「……あの、菅谷さん?」

「菅ちゃん、また変なスイッチ入ってる」

八木さんと小幡さんが苦笑いして、御園生さんは大きくため息をついた。

「ちょっと、いらっしゃい!」

「え?あの、」

菅谷さんに半ば引きずられるようにして、私はいつの間にかトイレに引きずり込まれ、大きな鏡の前にいた。

「菅谷さん?」

戸惑う私をよそに、自分の鞄からスクエアのポーチを取りだし中からあらゆる化粧道具を洗面台に広げ始めた。

なんか、ヤな予感。

つい最近にも同じことがあった気がする。

「じゃあ、まずは化粧下地を塗って、肌がキレイだからリキッドのファンデーションは薄目でOkでしょ。」

菅谷さんは指先や、ペンを器用に使い、まるで私の顔に絵を描くように化粧を施していく。

眼鏡を外しているから、鏡の中で少しずつ変わっていく自分が見えないのは残念だと思ってしまった。

「ん、いい感じ」

菅谷さんに渡された眼鏡をかけて、鏡を覗く。

「こんな感じになるんだ」

コンタクトにしているわけではないのに、雰囲気が違って見えた。

「チークとか、アイシャドーとかで肌色を少し明るく可愛くしてみました!」

一仕事を終えたとばかりに、菅谷さんは息をつく。