片恋スクランブル



御園生さんに連れていかれたのは、八木さん達の行き付けらしい居酒屋だった。

店の中に入ると、通路の左右に個室が数ヶ所あり、奥には広目の座敷があるのが見えた。

少し進んだ所で、御園生さんは暖簾を潜る形で中に入った。

堀炬燵になっている8人掛けのテーブルには、八木さんと白川さん、それに小幡さんともう一人女性がいた。

「悪い、待たせた」

御園生さんは空いている奥の席に腰掛け、私を隣に呼んだ。

「なんだぁ、社食の子じゃん」

小幡さんが私の顔を覗き込むようにしてみる。

う……、なんだか居心地悪い。

「あ、の……お邪魔します」

それ以外なにを言ったらいいのか分からず俯く。

「御園生がわざわざ女の子呼ぶなんていうから、誰がくるんだろうって話してたとこ」

もう一人いた女性が話し、私に向けてニコッと笑った。

「はじめまして、でいいよね?あたし同じ会社で経理の菅谷 蘭(スガヤ ラン)……よろしくね」

「あ、橘 舞夏です」

人当たりのいい笑顔に私の緊張も少し楽になった。

「白川さん以外は、みんな大学の同期でさたまにこうして飲みに行くんだ。」

八木さんが説明してくれる。

「えと、私がお邪魔しても?」

そんな仲間内の集まりに呼ばれたことに恐縮してしまう。

「いいの、我らがリーダーの御園生が呼んだんだから、誰も反論はしないよ」

菅谷さんの言葉に思わず私は御園生さんの顔を見た。

「なんだよ、」

「御園生さんって、親しい人達にも俺様なんですね」

つい、ポロッと本音がこぼれてしまった。

「プッ」

吹き出したのは八木さんと菅谷さんで。

「そうよ、俺様で、王子様で、リーダーなの!」

必死に笑いをこらえながら、菅谷さんが言う。