「うわぁ……見事な牽制していったねぇ」
隣で花田さんは、感心した口調でいった。
「……牽制?」
「そうよ、自分の獲物を横取りにするなってね。可愛い顔して怖いわねぇ」
花田さんはカレーをゆっくり混ぜながら、チラリと白川さんが向かった席の方を見る。
私も同じ方に視線を向ける。
八木さん達のテーブルのそばまで行った白川さんは、一言二言話してから八木さんの隣に腰かけた。
目の前に座る御園生さんにも話しかけているのが見える。
和気あいあいと楽しそうなその場面を見て、胸の隅がチリチリと音をたてた。
……あんな牽制なんてしなくても、あなたは堂々とその場所に行けるじゃない。
半年間見ているだけの自分とは違う。
それに八木さんは、白川さんの事を……。
羨ましいと素直に思う。
この場所にいることにはなんの後悔もない。
でも、ふと考えてしまう。
もし私が彼らと同じ会社員だったら、もっと八木さんに対しても、白川さんに対しても同じ目線の高さで会話できていたかしら?
*
「お疲れ様でした」
守衛さんに挨拶をして通用口をでる。
会社を出たのは、19時を過ぎていた。
町田さんに頼まれて、メニューの栄養素の計算をしていたんだけど、目チカチカする。
眼鏡を外して、目元を擦る。
「……遅い!」
突然頭上から怒声が響き、思わず悲鳴をあげてしまう。
「なっ?……御園生さん?」
眼鏡をかけて、改めて見上げると、不機嫌な御園生さんの顔があった。
「就業時間終わってるだろが。残業なら一言言えよ」
どうして?なんで御園生さんがここにいるんだろ……。
怒られているみたいだけど、理由が分からないよ。
「メール、見てないのか?」
御園生さんの言葉に頭をブンブンと縦に振る。

