「うわぁ……見事な牽制していったねぇ」

隣で花田さんは、感心した口調でいった。

「……牽制?」

「そうよ、自分の獲物を横取りにするなってね。可愛い顔して怖いわねぇ」

花田さんはカレーをゆっくり混ぜながら、チラリと白川さんが向かった席の方を見る。

私も同じ方に視線を向ける。

八木さん達のテーブルのそばまで行った白川さんは、一言二言話してから八木さんの隣に腰かけた。

目の前に座る御園生さんにも話しかけているのが見える。

和気あいあいと楽しそうなその場面を見て、胸の隅がチリチリと音をたてた。

……あんな牽制なんてしなくても、あなたは堂々とその場所に行けるじゃない。

半年間見ているだけの自分とは違う。

それに八木さんは、白川さんの事を……。

羨ましいと素直に思う。

この場所にいることにはなんの後悔もない。

でも、ふと考えてしまう。

もし私が彼らと同じ会社員だったら、もっと八木さんに対しても、白川さんに対しても同じ目線の高さで会話できていたかしら?







「お疲れ様でした」

守衛さんに挨拶をして通用口をでる。

会社を出たのは、19時を過ぎていた。

町田さんに頼まれて、メニューの栄養素の計算をしていたんだけど、目チカチカする。

眼鏡を外して、目元を擦る。

「……遅い!」

突然頭上から怒声が響き、思わず悲鳴をあげてしまう。

「なっ?……御園生さん?」

眼鏡をかけて、改めて見上げると、不機嫌な御園生さんの顔があった。

「就業時間終わってるだろが。残業なら一言言えよ」

どうして?なんで御園生さんがここにいるんだろ……。

怒られているみたいだけど、理由が分からないよ。

「メール、見てないのか?」

御園生さんの言葉に頭をブンブンと縦に振る。