「青柳先輩って、思ったよりいろいろ考えている人だったんですね」
「ぶは! 言うねえ」

 笑ってくれるのが嬉しくて私まで笑ってしまう。
 場の空気が温かい。
 などとのんびり構えていたら、突然青柳先輩は私の持っていたフェイスタオルを奪い、汗を拭った。

「あっ、ちょっと……!」
「違うの? 俺に使ってもらおうと思ったんじゃないの?」
「違……わない、です」

 タオルを用意したところまではよかったけど、いざとなるとそんな乙女チックなことはできなかった。
 ーーということが、青柳先輩にはまるわかりのようで、タオルで顔の下半分を覆って笑いを隠している。
 
「あー、こういうときってなにかお礼したほうがいいんだっけ?」

 タオル越しに悪戯っぽく探る視線が憎たらしい。
 こいつ絶対俺のこと好きだろっていう目。

 本心はまだ言いたくなかった。
 それじゃあ、私との出逢いにインパクトを残そうとした青柳先輩の術中にまんまとひっかかったみたいで。


「また課外活動したいです。あ、でも回りくどいの抜きで勉強教えてもらうのもありかも……先輩ですもんね」
「いいよ。何でも手解きするよ、かわいい後輩のためならば」
「それは、ありがとうございます」
「一瞬反応するところとか、ほんとかわいい」
「……」

 困りはじめた私が返事に詰まっている間に、青柳先輩と一緒に帰ることに決まってしまった。