「え…?」



「課長がいけないんですよ…。奥さんがいるのに、優しくするから…」




いつもとは違う、由奈の声。




どう返事をすればいいのか戸惑っていると、由奈が俺の左手を、自分の両手で包み込んだ。




「辛い…。この指輪がなければ、私は…あなたに………」




そう呟いて、薬指のリングに触れられた時…




「到着しましたよ、お客さん。」




運転手が到着を告げた。




「ありがとうございました、課長。」




そう言ってタクシーから降りる由奈の足がふらつく。



「危ないよ。部屋まで送る。」




彼女の身体を支えるようにして、マンションへ歩き出した。




エレベーターに乗った時。





「もう…これ以上私に優しくしないで…」




由奈が呟いた。




「岬…」




エレベーターが到着し、さっきまでふらついていたのが嘘かのように、由奈は俺から逃げるようにしてエレベーターを降りた。




そして、ドアに鍵をさし開けながら言ったんだ。




「これ以上優しくされたら…この気持ち、止められなくなる………」





その時、奥底に封印しようと思っていた気持ちが、一気に溢れ出た。




「………しく、ない。」




「…課長?……きゃっ…」




ドアを開け、由奈の身体を押した。




「優しくないよ、俺なんか。」




そう言って、壁に由奈を押さえつけ、激しく口づけをした。