「はい、どうぞ。」



5分後。



オフィスの前にある自販機で缶コーヒーを買い、由奈に手渡した。




「……これは?」




「缶コーヒーだけど…もしかして、ブラック飲めない?いやー、微糖と迷ったんだけどさ、岬ブラック飲んでそうだったからさ。これでも自販機の前で結構悩んだんだぞ?」




…なんて、言い訳がましく言ったような気がする。




だけど由奈は…




「…ふふっ。課長、ありがとうございます。」




入社して三ヶ月で、初めて彼女の笑顔を見たんだ。



その笑顔に、心の中がざわついたような気がした。




なんだろう…この、今までに感じたことのない気持ちは。




「いや…さ、なんか仕事で悩んでることがあればいつでも相談に乗るよ。……ってことが言いたかっただけ。」



自分に買った缶コーヒーを手に持ち、由奈の席から去ろうとした時だった。




「…課長は優しいんですね。」




その寂しそうに放ったフレーズ、忘れられないよ。



その時の俺の胸に、その言葉がスッと入っていったから。




「優しい?俺が?」



「だって、新入社員の私なんかを気遣ってくれるんですから。でも…」



そう言って、由奈は俺の目を見て言ったんだ。







「あまり女性に優しすぎるとダメですよ。…惚れられちゃいますから。」




その時、俺の今までの恋愛経験にはない、心臓のドキドキを感じた。