「先輩、そろそろ15分経ちます……けど」

 試合で勝った次の日の休憩時は先輩は少し重たい雰囲気になる。

「ああ。わかってるんだ」
 短い言葉は、いつも張り詰めていいるような気が、する。

 上手く言葉に言えないけれど、いつもこの人はどこからか向けられる期待に、ピアノ線みたいに張り詰めている気がする。

「野球が嫌なわけじゃない。期待されると、応えたいと頑張れる」

 むくりと起きて、帽子を深くかぶり直す。
 先輩の顔は見えなかった。

「ただ、この窓が少し開いていて、いつでもここだけは自由に入っていいと許されているのは、救われている」
「ここは先輩だけは特別ですよ」

 一人の時間が欲しいんだと思うった。誰にも羨望の目で見られない瞬間が欲しいのだと。
なので私は先輩だけ特別だと伝えたら、初めて笑ったように思う。
隙が無くて、完璧で、寡黙で知的な先輩が、唯一私にだけ本音を話す秘密基地。