ざわっと広がる黄色い声に、先輩は『以上です』と、言うときっと深々とお辞儀をする。
甲子園で優勝するまで、きっと先輩はきっと涙を見せない。それまでは私も先輩をずっと支え、応援したいと思う。強く大地を蹴りあげながら、野球部の元へ急いだ。
「近衛先輩!」
大声で叫んだつもりが声が出ないことに気づき、喉を押さえた。当の先輩は、――大物ルーキーと取材陣に騒がれたライバル校のキャプテンと硬く握手を交わしていた。
それを、取材陣が勝手に写真を取っている。
大物ルーキーは小麦色の、口元に大きな黒子が色男を演出しているマスコミが飛びつきそうなイケメンだった。騒ぐのも頷けると思えるほどの。だが彼は取り繕う事もせず先輩の方へ向き直った。
「今日は、フェアじゃなかった。君とは正々堂々と戦いたかったのに申し訳なかった」
「いや、良い修行になった。お前も秘密をばらされ辛かったろ。お互い様だ。また戦おう」
近衛先輩らしい相手への激昂に視界が潤んだ。そしてすぐ私の方へ振り返ってくれた。
「その声はどうしたんだ?」
「あはは。先輩達を応援したからに決まってるじゃないですか」
掠れて、上手く声が出ないが、喋った瞬間ぴりっと痛んだので喉を押さえる。
「そうだったな。ありがとう。――今日、一番お前の声が聞こえてきた。プレッシャーに乗り込まれそうな客席をお前が変えてくれたんだよな。――その声で」
近衛先輩は、ふわりと私を簡単に抱きあげた。
「先輩、肩っ」



