「演奏の準備!」
「チア部集合!」
「野球部一年、用意!」
「応援団、掛け声始めっ」
先輩たちの合図でまた客席から野球部へ応援が再開された。今度は息もぴったり。少しずつだが巻き返してきた。
ぶわっと涙が溢れてきたが、勝つまで泣かないと決めた。
声が枯れても良い。空に溶け込みたいと、両手を振って応援した。
「澪、見て」
友達がピッチャー交替している近衛先輩を指さす。それを息を飲んで見守る。
その時、――先輩はポケットから御守りを取り出しだ。
先輩はお守りに頬擦りすると、耳に当てた。目を閉じてお守りの中のピアノの音を聴いていた。連れてきてくれていた。
押しつぶされそうなプレッシャーの中、私の音色を思い出してくれている。
蝉の声が消える。歓声も、解説の声も。
大物ルーキーに、先輩はストレート三振を奪った。全開の自分を乗り越えるために、仲間にも自分の為になるように。



