先輩は私の、青空ヒーロー。



『無名高校から、実力で甲子園に行けと、母親の旧姓で乗り込んだ期待の一年生エースが、今日、その真実のベールを脱ぎます!』

いきなりの漫画の様な展開を話されて面食らいながらも、会場も取材陣の多さに緊張している。
「大変だよ、澪! どうやら対戦する高校の投手、プロ野球選手の息子らしいって」

「プロ野球選手の息子?」

「つまり、会場の空気が完全に向こうへ飲み込めれてるんだったば。努力のルーキーにって」

対戦相手の観客席からとてつもない大きな歓声が起こった。私たちの観客席からも、その野球選手のファンがいるのだろう。ちらほらとざわめき始めた。


そうだ。完全に、今日の主人公は、相手校の努力のエース。


父が野球選手だとばれないように、それでいて違う県のわざと無名高校に入学し、腕を上げて来たのだ。一年時から期待のルーキーとして先輩と競いあってきた。

野球で勝負するのならば県下一のうちの学園に入るのが一番のはず。


無名高校で、強校のライバルだと謳われるようなチームに育て導いたのが、今日の日までその身分を隠していたそのエースだ。


取材陣は彼ばかりを映し、真実を知らされた両高校半分は歓喜し半分は動揺した

。これが向こうの高校の作戦だったのならば些か汚いやり方だが、向こうのエースは悔しそうに帽子を地面に投げていた。誰かの話題性狙いか、策略なのかもしれない。