仄暗い教室の片隅で僕は窓の手すりによりかかっていた。吹く風は冷ややかさを含み、四月の半ばとはいえ、季節が簡単に逆戻りしてしまうことを教えている。僕は隣の席をみて、「ある人」を待っている。六年になってもうすぐ一ヶ月。なんとなくクラスにも馴染んできて、友達も増えてくる頃だろう。
実際に僕もそうだ。しかし、今年知り合った人とは、転校とかがあれれば残念ながら今年が最後になるという、かなり不思議なものである。
そんな時期だが、僕が待っているのは、今年知り合った人ではない。この学校に転入し、僕は碧(あお)という友達が出来た。
そんな碧と、昔から仲の良い柚(ゆず)と、去年の十月に出会い、だいぶ話すようになった。
「あっ、おはよー」
いつもの声だった。腰まである彼女の黒い髪が風で揺れる。
青井柚。いわゆる天然で、友達もそこそこいる。何故かよく僕をいじってくる。その割に自分がいじられるのには慣れてない。
彼女に特に嫌な点はないが、しいていうなら
キノコ嫌いなとこだろうか。
「おはよー今日早いね」
「そうかな?5分くらいでしょ?早いって言ったって」
「まぁ、それでもね。」
いつも朝は昼の委員会の放送原稿を、つくるか、その原稿のための集計をするかのどちらかであったが、昨夜、原稿は作ってしまった。そのため、少々暇であった。
「ところでこっはーさ、碧知らない?ずっと探してるのにいないんだよ」
「さぁ、どうかしたの?」
「いや、碧がいるなら、あの人もいるだろうしと思って。」
その代名詞に僕は迷わずに答えを出した。基本的に碧がいつも一緒にいる人は決まっているからだろうか。
五年の時と、あまり教室の雰囲気も変わらず、僕は特に違和感なく過ごせていた。朝露に濡れた虫の羽は黒くつやつやと輝いているのが窓から見えた。
透き通る水滴のような鶯の声と共に朝の会が始まった。
〜「先生の話は以上です。当番、挨拶を」
先生がそういうと、
当番が終わりの挨拶をした。うちの先生、比較的に、話が長いから、大半の人がそれを嫌がっている。
僕にはそれが理解できない。
朝の会が終わって、しばらくすると、足音がした。
「あれー?また柚、こっはーといんの?イチャつくのは許さないよ?」
僕の名前がこはくであるせいか、いつの間に
「こっはー」
と呼ばれるようになった。誰かと思ったら絵名だった。
5年の時にすごくお世話になったけど、相変わらずこの性格は
どうにかして欲しい。
「いやーこっはーの彼女になるのはちょっとなー」
柚は微笑し、僕の方を見た。
「はぁ?あんた何様!?」
僕はそう口にして机を叩いた。
「いや、あんただって
別に付き合う気ないでしょ?ならよくない?」
確かに、好意はない。
だから、別にいいといえばそうだ。
仕方ないか、と冷静になった。
、、、今思うとなぜこんなにも腹をたてたのだろうか。
「君達付き合ってもいいんじゃ?」
絵名のその一言に、柚と僕は戸惑った。
しばらくすると、奇跡的にチャイムが鳴った。
「あ。1時間目の支度してない!急がなきゃ!」
絵名が机に戻ると、僕らは沈黙に落ちた。
~1時間目が終わった。
いつもなら柚と話すけど、とてもそんな気分になれない。
しばらく黙っていると、後から、
「こっはー!元気か?」
誰かと思ったら碧だった。
「あぁ。げんき、、、だよ、」
いつもクラスをまとめるのが上手く、大抵調子がいい彼。
どうせなら相談に乗ってもらおうかと、こんなことを聞いてみた。
「碧はさ、仲のいい女子との関わりを恋って
呼ぶ?」
「一応そう思ったから
僕は告ったのだけどね。」
あ、そうだった。こいつたしか、、。
一応柚にも聞いてみたらやっぱりそうだった。学年中の誰もが
え?
と思ったらしい。
.......やっぱり柚は黙ってる。
彼女にとって、僕と付き合うというのはどういうことなんだろうか。とても彼女に恋愛経験はなさそう。

ーーチャイムが鳴った。
朝は晴れてたのに雲が流れてきた。
予報だと、降らないはずだけど、
大丈夫かな?
、、、、柚と付き合うか、、、、
今までに考えたことがなかった。
ていうか僕は世間で呼ばれてる
「恋」をしたことがないと思う。
だから、柚と付き合うのは、
ないと思う。
そう頭の中で繰り返すうちに、

嫌ではない

と、心のどこかで、言ってる自分が
いるのに気づいた。
チョークの音、花の匂いがする風、
鉛筆の落ちる音。こんなにもうるさかっただろうか。普段は気にならない
音がいつもよりずっと大きく聞こえる。
「柚、君は僕と付き合うことになったらどうする?」
どこか心のなかで、そう言い続ける人がいる。その声はどうしても響き続ける。

止まることなく、、、、
ただひたすら、、、