「はあ。」

テストの順位表ほど見たくないものはない。

(また最下位だ。)

何回見ても〝梶野 日向〟私の名前は、1番端っこ、つまり最下位の位置にある。

「ひなちゃん、また最下位?」

「葵、うん、最下位。あんたはまた1位?」

「うん。」

〝宮島 葵〟。高校入ってもう2年も経つのに、こいつの名前が1位以外にあるのを見たことがない。幼なじみのくせに。

「なんで、幼なじみで同じ勉強をしてきたはずなのにこうも違うんだろう」

「ひなちゃんがテスト前なのに勉強しないからでしょ」

「だってしたくないんだもん。」

「そんなふくれて言われたって困るよ、それにずっと最下位はやばいって。」

「うるさいなー。葵なんて、ヘタレのくせに。地味メガネのくせにー!」

「へ、ヘタレは今関係ないし。それに、メガネに地味も何もないでしょ。」

「葵のくせにムカつく」

「意味がわからないから」

そう。葵のくせに。彼女できたことも無い、私以外の人と話してるのを見たことない葵のくせに。

「葵さ、勉強ばっかしてないで彼女つくったら?華の高校生なんだから青春しなきゃ!」

「彼女かー。ってひなちゃんだって彼氏いないでしょ」

「いたもん。この間まで」

「交際期間1週間だったんでしょ?なんで別れたの?」

「彼女が学年最下位なんてありえないって言われた。」

じゃあ、最初から付き合わなきゃ良いのに。
ふと、元彼に別れ際に言われたことが頭をよぎる。

『顔だけは良いのに。バカなんだよなー。』

「うっざ!何それ!?」

「わっ!?急に何叫んでるの?」

「別に!お腹減っただけ!」

(顔だけ?顔だけってなんだ。1週間しか付き合ってない人に言われたくない!)

元彼に言われたことに今更ながら、イライラしながら〝塩ラーメン 大盛り〟のボタンを押す。イラついた時は決まってこれだ。
そんな事は葵も知ってるわけで、

「イライラしてるんだね。ひなちゃん」

「お腹減ってるだけだもん。葵は食べないの?」

「うん、僕はいいや。お腹減ってないし」

「じゃあなんで来た」

「ひなちゃんが来たから?」

なんだそれ。私以外に友達いないのか?
そうだ、葵は私以外の人と話す時は緊張しすぎて話せないから友達がいないんだ。

塩ラーメンを食べきり、ふと横を見ると葵が真剣な眼差しで勉強していた。窓からこぼれる日差しで葵がキラキラしてる。

キレイ。

素直にそう思った。

「え?」

思ってた事が口に出ていたようで、葵が目を開いてこっちを見ていた。葵の黒く澄んだ瞳が私を見つめる。

「ひなちゃん?」

「あっいや、その、えっと、目。そう!葵の瞳がキレイだなって。」

「め?」

そう言いながら首を傾げる葵。

(かわいい。)

っておかしい。いつもならそんなこと思わない。なら何で?分かんない。まさか、

「私、病気かもしれない」

「え?どうしたの急に」

しまった。また口に出てた。思わず両手で口を覆う。また、葵のキレイな瞳が私を見つめる。

(なんか、恥ずかしい)

「何でもない!私、先いくね!」

急いで食器を戻し、屋上まで走る。
扉を開けるとそこには誰もいなくて、風が心地よく吹いていた。
フェンスに寄りかかると、バクバクしている胸を抑えながらため息をつく。

(なんだ。今の。絶対おかしい。いつもならなんとも思わない。)

いつもならこんなふうに心臓がバクバクしたりしない。

(走ったから?いや違う、あの時だ)

さっきの光景が頭に浮かぶ。

(葵のせいだ。)

あの時、葵の顔があまりにもキレイすぎて。

(あいつのせいだ。)

赤くなった頬を抑える。

「葵のばか。」

風が優しく吹いていた。