榛名くんはわたしに気づくと、
抱きしめていた女の子をゆっくり離した。



そして、その子から離れて、わたしがいる前の扉のほうに近づいてくる。


ただ、気まずくて、視線を下に落とした。



なんだか、胸がすごく苦しくて…。
このままだと泣いてしまいそうで……。


グッと下唇を噛み締めた。



すると、榛名くんは、そんなわたしの顔を下から覗き込むように見てきた。

いつもと、何も変わらない榛名くんの表情。



そして、驚くことを口にする。


「ねー、ひな」


わたしの名前を呼びながら、さっきまで抱き合っていた女の子を自分のほうに招きながら言った。


その声に少し顔を上げた。



「僕さー、この子に付き合ってほしいって言われたんだよね」


「……っ」



……いやだ、と率直に思ってしまった。
だけど、そんなこと今は言えない。


だから、黙って榛名くんから次の言葉を待つ。