むうちゃんは返事をしなかったが否定もしなかった。

 未來はそれを肯定と受け取ったようだった。

「お兄さんは不幸だ」

 未來の声が店に響く。

「なぜ運命の糸が普通の人には見えないか。それは見えない方がいいからだと思う。なぜ見えない方がいいか。それはそんなことに左右されずに人を愛すべきだから。僕が言いたいのは、僕が琉海ちゃんと同じ色の糸を持っていないからって、僕の琉海ちゃんへの気持ちがまるで本物じゃないかのように思われるのはものすごく心外だってこと」

 最初未来の矛先はむうちゃんだったのが途中から琉海になる。

「僕は琉海ちゃんが本気で好きだ。たとえ運命の糸の色が違ってもこの気持ちは本物だ。琉海ちゃんと同じ色を持つ奴がいてもそいつに負けない自信がある。僕と同じ色をもつ女性が世界のどこかにいるとしても、そんな会ったことのない人なんてどうでもいい。僕は今、目の前にいる琉海ちゃんを大事にしたいんだ」

 未來はむうちゃんを振り返った。

「僕は間違っていますか?」

 いつも柔らかな物腰の未來がこの時は違った。

 そんな未來を見て琉海の胸が落ち着かなくなる。

「そうだね……君の言うとおりなのかも知れない」

 なんだかむうちゃんは寂しそうに見えた。

 むうちゃんは琉海に今日も店は手伝わなくていいよと声をかけると暖簾の向こう側に消えた。

「え、むうちゃん今日はちゃんと手伝うよ。ってことでごめんね未來」

 琉海は慌ててむうちゃんを追いかける。

 その琉海の手を未來はつかんだ。

「琉海ちゃん」

「未來ごめん」

「なに?そのごめんはなんのごめん?」

「あたし」

 未來は陸の王子ではなかった。

 だから未來を好きになるわけにはいかない。

 でもそれは大冴も同じだ。

 それを言ったら海男だって。

「あたし未來の気持ちには応えられない」

「じゃあ、誰の気持ちだったら応えられるの?」