やれやれ。
琉海ももう帰ろうとくるりと浜辺に背を向けると視界の先に小さな白いものが浮かんでいた。
嵐に翻弄されくるくると木の葉のように回る1艘のヨットだった。
琉海は水に潜ると全身をくねらせすごいスピードで泳いだ。
急がなければ今にもヨットは転覆するだろう。
ヨットから悲鳴が聞こえた。
すぐ近くの白い波の間に黒い頭が見えた。
人間の男だった。
こ、これが陸の王子か。
あたしの運命の相手。
そう思ったら別の方向にもう1つ影が見える。
そっちも人間の男だった。
陸の王子が2人!つか、どっちが王子だ。
琉海は迷った。
その間も2つの頭は白い波に飲まれて見えなくなったり現れたりしている。
ええいっ、こうなったらとりあえず両方助けるとするか。
琉海はすかさず自分に近い方の男に近づいた。
すでに気を失っている男を抱えて浜辺に運ぶと、水の中を矢のように沖に戻った。
もう1人の男も荒波に飲まれながらまだなんとか浮いていたが、同じように意識がない。
2人目の男を抱えて浜辺へ向かおうとしたとき琉海は何気にヨットの方を振り返った。
白い服を着た女が1人ヨットに残されていた。
女は琉海に抱えられた男と琉海を見ていた。
琉海と女の目が合う。
2人目の男を浜辺に横たわらせた後、琉海はヨットに戻らなかった。
女に琉海の姿を見られた以上、女を助けるわけにはいかなかった。
琉海が海の中に戻ると、ついに琉海が王子に巡り会ったと姉たちは大騒ぎした。
「それで王子はどんな男だった?」
「イケメンだった?」
「好きになれそう?」
姉たちは琉海を取り囲んだ。
「2人いた」
琉海は面倒臭そうに答える。
姉たちは顔を見合わせた。
「2人ってどういうこと?」
「人間の男が2人溺れてた」
「で、あんたどうしたの?」
「2人とも助けた」
姉たちはまた大騒ぎになった。