琉海は夜の海辺で途方に暮れていた。

 カモメのフンで汚れたベンチは今日も空いていた。

「これからどうしよう」

 結局大冴の手前未來のところに行くわけにも行かず、未來の誘いを断って大冴のところに居座ることもできずに荷物をまとめて琉海は1人出てきた。

 だが行く当てもないしお金もない。

 姉たちに相談する気にもなれなかった。

「姉さんたちの言うことなんて当てにならないからな」

 こういうとき今までだったら海男が出てきて助けてくれるのに。

 琉海は辺りを見回すが目に入ってくるのはお互いしか見えていないカップルばかりだった。

 琉海は目を閉じた。

 鼻をひくつかせ濃い潮のかおりを探したが、するのはドブ臭い塩水の臭いだけだった。

 あんなふうに自分から海男を突き放しておいて、今また海男が助けてくれることを期待してるなんて都合いいよね。

 思えばあたしは人間になってから誰かに頼ってばっかりだ。

 仕方ないって言えば仕方ないけど、人魚だった時はこんなじゃなかった。

 もっと自由だったし、もっと強かった。

 今のあたしは誰かがいないと生きていけないコバンザメみたいだ。

 琉海は立ち上がった。

「あたし自立するぞ」

 そうだ今の人間の女たちは自立しているではないか。

 先代の伝説の姫たちは王子に愛されるためだけに全てを捧げてきた。

 あたしは今までいないような伝説の姫になるんだ。

 世界を制することになるのかもしれないのだからいろんな経験をしておいた方がいい。

 そもそも陸の王子に愛され愛すだけがあたしの人魚生だけなんてつまんない。

 せっかく人間になったのだ。

 人間の人生の酸いも甘いも経験してやろうではないか。

「やったろうではないか」

 琉海は拳を空に突き上げた。

 琉海のお腹が鳴った。

 お腹が空いた。

 大阪で未來に買ってもらった豚まんを食べたきり何も食べていない。

 琉海は目を閉じある匂いを探した。

「こっちだ」

 琉海は匂いのする方向に向かった。