大阪へ向かう新幹線の中で琉海は焼肉弁当を手に入れた。

「朝からよくそんなもん食えるな。腹痛の病人とは思えねぇ」

 そう言う大冴は16個入りの東京ばな奈のすでに半分を平らげている。

「大阪着いたら病院の前まで連れてってやるけど、俺は他んとこで時間潰してるから」

 大冴は最後に、病院の消毒液の匂いが好きじゃない、と付け加えた。




 メモに書かれた住所にあったのは病院というより小さな町の診療所といった感じのところだった。

 1階にミスタードーナツが入っている古い建物の2階にあり、中に入ると薬草の匂いが鼻をつく。

 青いビニール製のスリッパに履き替えようとしたら奥から怒鳴り声が聞こえてきてきた。

「わしの言うこと聞かんのやったら、もう来んなぁ」

 琉海が受付をしている間にも怒鳴り声は続く。

 受付の女性は慣れているのか全く動じておらず、澄ました顔をして琉海に長椅子に座って待つよう言った。

 平日の朝、開院してすぐだったからか患者は琉海ともう1人マスクをしている男性だけだった。

 まもなくしてマスクの男性が呼ばれ、また奥から怒鳴り声が聞こえてくる。

 いったい何だってこんなところを海のドクターは紹介したんだと、琉海は帰りたくなってくる。

 帰ってしまおうかと椅子から腰をあげようとした時、琉海の名前が呼ばれた。

 通された奥の部屋に入ると薬草の匂いがきつくなる。

 怒鳴り声の主は想像していたよりも優しそうな顔をした初老の男だった。

 男、その町医者は受付で琉海が書かされた紙をじっと見ている。

 書かされたと言っても氏名の欄に『琉海』とだけ書いてあとは空欄だ。

 町医者は紙から目を離すと琉海をまじまじと見た。

「おまえさん、腹が痛いんやろう」

 町医者の顔が息がかかるほど近づくので、思わず琉海は身を引く。

「なんで分かるんやろっ、って顔しとるな。わしはなんでも分かるんや。漢方出したるからそれ飲み」