空に向かってそびえ立つ建物の最上階が大冴の部屋だった。
白で統一された家具に部屋全体を取り囲むような大きな窓。
「すっごぉぃ、すっごぉぃ。この前飛行機の中から見た景色みたい」
琉海は窓にへばりついた。
「指紋がつくから窓にさわんな」
大冴がボトルに入った水を小皿に注ぐと茶々丸はよほど喉が渇いていたのか、一心不乱で水を飲む。
琉海は窓の外に東京タワーを探すが見あたらない。
その代わり空を突き刺すようにとんがった建物を見つけた。
「あれはなに?」
「スカイツリー」
「光らないの?」
大冴は夜になるとライトアップされると答えた。
「ねぇ、東京タワーは?」
「ここからは見えない」
「なんだぁ、つまんない、がっかりぃ」
琉海は下唇を突き出し不服そうにする。
「おまえさっきの腹いたは仮病じゃないだろうな。東京タワーは俺の寝室から見える」
「え、見たい見たい」
「だめだ」
「なんで?」
「立ち入り禁止だ」
「またぁ?」
海辺の別荘でも琉海が入ってはいけない部屋があった。
ちぇっ、いいもん、いいもん。
またあの男の人に会ったら連れて行ってもらうもん。
琉海は窓から見えるスカイツリーを眺める。
それにあれも夜になったらすごい綺麗かもしれないし。
琉海は10人くらい座れそうな白いソファーに腰を下ろした。
海辺の家と比べて殺風景な部屋だった。
死んだ珊瑚礁のようだと琉海は思った。
広すぎるソファーに身を任せていると睡魔が襲ってきて琉海はそのまま眠ってしまった。
目が覚めると足元に茶々丸が丸くなって寝ている。
寝息でわずかに体が動かなければ白いクッションと間違えて足を乗せるところだった。
窓の外にライトアップされたスカイツリーが見えた。
琉海は起き上がって窓のそばに寄る。
青白く光るそれはなんだか巨大なタワーの亡霊のように見えた。
琉海はがっかりした。
「なんかあんまり綺麗じゃない、暗い〜、なんかぬぼぉ〜ってしたかんじ。東京タワーの方がきれい」
「俺はスカイツリーの方が好きだけどな」
大冴の家なのに大冴がいることをすっかり忘れていた琉海は驚いて振り返る。
暗闇の向こうに大冴が立っているのが見えた。
まるでスカイツリーみたいだと琉海は思った。
「みんな東京タワーの方が好きなんだな」
暗くて大冴の表情は見えなかったが、大冴が寂しそうな顔をしているように琉海は感じた。
光り輝いていた東京タワーに比べスカイツリーはくすんだ東京の夜空に混ざってしまいその輪郭さえもはっきりしない。
東京タワーは眩しいくらいだったのに。
なんでこんなのが大冴は好きなんだろう。
琉海には理解できなかった。
こんなまるで大きな暮石みたいなタワーが。