「さぁ……」

「ねぇ、姉さんたち、本当に陸の王子はあたしが海で助けた男というのだけが見分け方なの?他にも何かあるんじゃないの?」

 それもそうねぇと、姉たちは首をかしげる。

 琉海はコートの男のことはまだ姉たちに話していなかった。

 こんなことを姉たちに聞くのは心のどこかにコートの男が王子であって欲しいという気持ちがまだ捨てきれずにあるのかも知れない。

「あ、そう言えば前に深海の魔女が言ってたかも」1人の姉が言った。

 深海には何千年も生きているという歳老いた人魚がいた。

 歳を取りすぎて太陽の光を浴びると体が痛むらしく、もうみんなが覚えていないほど昔に深海に潜り、それ以来ずっとそこで暮らしている

 。他の人魚たちは彼女のことを深海の魔女と呼び、時には恐れ、時には慕い、何かあると深海の魔女に訪ねた。

「伝説の姫と王子が触れ合うと火花が飛ぶんだって」

「火花?」

 琉海は繰り返した。

「どっちの男とする?琉海」 

 どっちもしない。

 大冴も未來も。

 火花なんか飛ばない。

 琉海がそれを伝えると姉たちは口々に「でもそれってちょっとでしょ、気づかないんじゃない?」「それか深海の魔女はボケちゃってるか」と口々に言った。

結局大冴と未來のどちらが王子なのか見分ける決定的な方法はなかった。

「そのためにも両方と契るのよ琉海」

「でもそれってさぁ」

 琉海はため息をついた。

「それってなによ」

「なんか違う気がする。あたしは王子とだけ契りを結ばないといけないんだと思う。そうじゃないと伝説は実現しない気がする」

「でももう1人と契っちゃったじゃない」

「本当にあたし未來とやっちゃったのかな?」

 そんなこと聞かれてもねぇ、と姉たちは口ごもる。

「なにか体で変わったことはないの?」

「ぜんぜん」

「わたし達も誰も契ったことがないから分かんないよねぇ」