「あの、なんでもするからここにしばらく置いてくれないかな」

 陸の王子を見つけたらすぐに出て行くからさこんなとこ。

 灯台男はちらりと琉海を見た。

「おまえ、なんでもするって言ったな」

「うん、するよ。あたしにできることならなんでも」

 男はソファーから起き上がり不敵な笑みを浮かべた。

「できないこともやれ。だったら置いてやる」

「そんな、できないものはできないよ」

「よーし決まった。おまえは今日から俺の奴隷だ、茶々丸の下だ。俺のことは大冴さまって呼べ。茶々丸にはさんづけしろ、茶々丸さんだ。とりあえず俺の足を揉め」

 灯台男は再びソファに横になると足を放り出した。

 え〜っ、と琉海は思ったが仕方がない。

 渋々琉海は男の足を揉み始めた。

「なんだよおまえの手、冷たいしベタベタしてんな。それになんか生臭さっ」

 男は琉海を浴室に連れて行った。

「いつまでもそんな変なコート着てないでシャワー浴びてこれに着替えろ」

 見ると縞々模様の囚人服だった。

 琉海は脱いだコートを丁寧にたたむ。

 あの優しい男の人はもしかしたらこの辺に住む人じゃないのかも知れない。

 刺繍された文字を指でなぞる。

 いつかまた会えるかな……。

 シャワーの蛇口から出てきたお湯は恐ろしく熱くて琉海はすぐに手を引っ込めた。

 まるで昔人間に触れられた時のような熱さだった。

 そういえばさっき灯台男の足に触れた時熱くなかった。

 琉海の体温よりずっと高くはあったが熱いと言うほどではなかった。

 自分が人間になったせいだろうか?

 浴室の大きな鏡に琉海の姿が映る。

 長い白銀の髪も虹色の尾っぽもないが、琉海は伝説の姫なのだ。

「人魚が世界を支配する日が来たら、真っ先にあの灯台男をあたしの奴隷にしてやる」

 琉海はペっとドアに向かって唾を吐いた。